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彩花さん 私の言葉は、今、ここに 挿しはさめる余地はありません。 母上の京子様の、 涙が、何度、指とワードプロセッサーの上に 落ちたことでありましょう。
「また今度ね」 といいました。しかし、彩花は珍しく、見せてくれとしつこくいいます。しかたなく、私は真珠のネックレスを出してきました。すると、今度は首にかけてくれというのです。彩花はトーストを食べていましたので、私は真珠が汚れてしまうと思いました。汚されたら手入れが大変です。
お昼ご飯を食べさせようと思っていたのですが、朝が遅かったこともあり、彩花はお腹が空いてないといいました。二時か三時頃に帰ってくるので、それから食べるといいます。 十一時四十五分頃、それが、最後の別れになるとも思わず、彩花を一人残し、自転車に乗ってショッピングセンターに行きました。 その間にも、砂時計の砂は滑り落ちていました。 お見舞いの品を買った私は、いつもならすぐに帰るのに、なぜかこの日だけは、用もないのにショッピングセンターをウロウロしていました。 一方、私が出かけたあと、十二時七分に彩花は約束していたお友達に電話をかけていました。私が出かけたので、約束の時間を早めようとしたのかもしれません。十二時十五分とか二十分という時間に変更したのではないかと思います。 しかも、待ち合わせ場所は、いつもは彩花が近づかない公園でした。なんとなく気になる場所だったので、彩花には行かないようにしてね、といっていたのです。 彩花は、待ち合わせ場所となったその公園に行きました。ところが、約束したお友達は着いていませんでした。 そして、少年が近づいてきたのです。 ここから先は、母親としては、できることなら書きたくない部分です。あるいは、書くことにお叱りをこうむるかもしれません。しかし、あえて勇気を出して、少年の告白をもとに娘の生きた時間の真実を留めることにします。 少年は、一人で公園にいた彩花に、 「手を洗う場所を知りませんか?」 と尋ねました。 もちろん、私は日頃から彩花に、知らない人に道を聞かれても、遠いところだったり、車に乗って教えてほしいななどといわれたなら、ついていってはダメだと教えていました。決して軽率なことをする子ではなかったので、私は、このとき少年の手が本当に汚れていたのではないかとさえ思うのです。
そういうと、恥ずかしそうに微笑んで、 「お母さん、人が見とうから、彩花恥ずかしいわ。あのクリーニング屋さんで降ろしてな」 といいました。 その場所は、見たことがあるようなないような曖昧な場所なのですが、マンションや一戸建てが建ち並ぶ住宅街の一角でした。 約束のクリーニング店の前に着くと、彩花は少し体を硬くして、私の手から降りる準備をし、 「お母さん、ありがとう」 と、はっきりいってくれたのでした。 今度は、彩花の左手と私の右手をしっかりとつなぎます。彩花は車道側を歩いていたので、私は手をつなぎ変えて、彩花と入れ替わろうとしました。その手の温もりが、今でも確かな温かさとして右手に残っています。 「どんなことがあっても、この子を守っていかないといけない」 そう心に思ったとき、目が覚めました。 あまりにリアルな光景だったために、すぐには今のが夢だとはわからなかったほどです。 彩花は、亡くなったときと同じおかっぱ頭で、胸にクマちゃんのワンポイントの入ったアイボリーのハイネック、裾にアルファベット模様の入った茶色のズボンをはいていました。いずれも、気に入って生前によく着ていたものです。 事件の前日も、私は、 「彩ちゃん、一回だっこしたろ」
夫は、そういってくれました。 (『彩花へ――「生きる力」をありがとう』P66〜P69、P182〜P185より)
(『彩花へ――再び』P13〜P14より) 彩花さん、
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